領収書とレシートの違いは?どっちを貰えばいいの?
令和2(2020)年4月1日時点の施行法令に基づく
一、はじめに
経費として計上する際、領収書が必要と考えていませんか。レシートではダメなのか、何が違うのかと疑問を持ったことはありませんか。また、正しく領収書やレシートを貰っているでしょうか。それら、領収書とレシートの疑問についてお答えします。個人事業主やこれから事業を始めようとしている方の参考になれば幸いです。
二、結論
レシートがあれば問題なし。
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三、目次
四、領収書とレシートの違い
領収書もレシートも日本語にしたらどちらも領収書で同一ですので、受取証書という本来の機能の点では違いはありません。領収書を請求された場合、領収書だろうがレシートだろうが民法486条の「受取証書」の交付の観点において、どちらでもいいのです。
もっとも、現在の日本の慣習では、領収書と言ったら手書きのもの、レシートと言ったらPOSレジから打ち出されたものを指すようです。
また、両者の記載内容にも多少の違いがあります。最近ではほとんど差のないものも見受けられるようになりましたが、大きな違いとしては一般的には従来次のような違いがあります。レシートには商品やサービスの明細があるが、一方で領収書には明細はなく(但書がこれにあたる)、レシートには無い宛名の記載があるという点が大きく異なります。
では、両者の違いを知った上でどちらを貰うべきかみていきましょう。
五、領収書やレシートの保存義務
領収書やレシートがなくても経費になる!?
所得税法232条1項
「不動産所得、事業所得若しくは山林所得を生ずべき業務を行う居住者」は、
「財務省令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれにこれらの所得を生ず
べき業務に係るその年の取引」「のうち総収入金額及び必要経費に関する事項を
財務省令で定める簡易な方法により記録し、かつ、当該帳簿(その年においてこ
れらの業務に関して作成したその他の帳簿及びこれらの業務に関して作成し、又
は受領した財務省令で定める書類を含む。次項において同じ。)を保存しなけれ
ばならない」。
財務省令で定める書類は次のように規定されている。
所得税法施行規則102条3項2号
「法第232条第1項に規定する業務に関して作成し、又は受領した請求書、
納品書、送り状、領収書その他これらに類する書類(自己の作成したこれらの書
類でその写しのあるものは、当該写しを含む。)」
青色申告者についても同様な規定が設けられている。
所得税法148条1項
「第143条(青色申告)の承認を受けている居住者は、財務省令で定めると
ころにより、同条に規定する業務につき帳簿書類を備え付けてこれに不動産所得
の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額に係る取引を記録し、かつ、当該帳
簿書類を保存しなければならない」。
保存すべき帳簿書類とは
所得税法施行規則63条1項3号
「取引に関して相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積
書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのある
ものはその写し」を保存しなければならない。
確かに法令上、領収書の保存義務が明記されている。そのため、受け取った領収書は保存義務があると言えよう。なお、受け取らなかった領収書については保存義務は無い。
もっとも、保存義務はあるにせよ、保存しなかったからといって、経費として認めない旨の規定は存在しないのである(そもそも受け取れなければ保存義務はないのだから)。つまり、経費を支払ったことの証拠書類として領収書が要求されているわけではない。領収書がなくても合理的範囲で経費として認められる可能性はある。ただ、税務署に経費として認められなかった部分については証拠がない以上、認めさせるのは難しいだろう。そこで、領収書がない場合や紛失した場合には出金伝票などで支払いの証拠を残しておく方がよいだろう。
なお、青色申告者については、保存義務違反は、青色申告が取消される可能性があるので注意が必要である(所得税法150条1項柱書・1号)が経費が認められないこととは別の問題である。
ところで、上記は不動産・事業・山林所得についてである。雑所得であれば、領収書の保存義務すら規定されていない(令和4年分以後の所得税においては、業務に係る雑収入が300万円を超える場合には保管義務が生じる)。
さらに言えば、税法上、領収書やレシートの定義については何ら規定されていないのである。
以上より経費支払いの証拠として領収書やレシートは必要ないのである。ただ、何かしら証拠として保存しておくのが望ましいのです。そこでレシートがあれば十分ということになります。
六、領収書VSレシート
消費税額の控除には領収書やレシートが必要
唯一、領収書やレシートの要件たり得る事項が規定されているのは消費税法である。そこでは、支払った消費税の控除を受けるために保存すべき書類が規定されています。つまり、領収書VSレシートの問題は消費税額の控除の場面で起こるのです。
大雑把に言えば、消費税法30条1項には、事業者が納付すべき消費税額は仕入れで支払った消費税額を控除した額にする旨規定されています。
そして、請求書等を保存しなければ、税額控除を受けられない旨規定されています。
消費税法30条7項
「第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る
帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少
額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合
における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当
該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税
額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該
保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この
限りでない」。
「請求書等」とは次のように規定されています。
消費税法30条9項1号
「事業者に対し課税資産の譲渡等」「を行う他の事業者」「が、当該課税資産
の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類
で次に掲げる事項(当該課税資産の譲渡等が小売業その他の政令で定める事業に
係るものである場合には、イからニまでに掲げる事項)が記載されているもの」
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(括弧書略)
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地
方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
ここには、領収書やレシートという文言は出てきません。「これらに類する書類」に領収書やレシートが含まれると理解するのです。「イ」~「ホ」の事項が記載されている請求書や納品書があれば、領収書やレシートがなくてもよいのです。領収書やレシートが問題になるのは請求書や納品書が交付されない店頭での取引のことがほとんどでしょう。
一般的に、「イ」~「ニ」は領収書やレシートどちらにも記載のある事項です。むしろ、レシートの方が詳しく書いてあります。ところが、「ホ」はレシートに記載がないことが多いのです。ここだけ見ると領収書の方がいいようにも思えるかもしれません。
しかし、例外として「ホ」がいらない場合があるのです。それが次の事業に係る取引の場合です。
消費税法施行令49条4項
一 小売業、飲食店業、写真業及び旅行業
二 道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第三条第一号ハ(種類)に規
定する一般乗用旅客自動車運送事業(当該一般乗用旅客自動車運送事業として
行う旅客の運送の引受けが営業所のみにおいて行われるものとして同法第九条
の三第一項(一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金)の国土交通大臣の
認可を受けた運賃及び料金が適用されるものを除く。)
三 駐車場業(不特定かつ多数の者に自動車その他の車両の駐車のための場所を
提供するものに限る。)
四 前三号に掲げる事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行
うもの
多くの場合、この例外規定にあたるのではないだろうか。あたらない場合でも請求書や納品書があることが多いのではないだろうか。そうすると、「ホ」が記載されている領収書は多くの場合で不要であり、「イ」~「ニ」が詳しく書いてあるレシートの方が優れているといえるだろう。
さらに、一回の取引が3万円未満であれば、レシートすら不要なのです。また、やむを得ない理由がある場合は3万円以上であっても不要なのです。ただ、証拠として保存しておくことが望ましいのは言うまでもありません。
消費税法施行令49条1項
一 法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が三万
円未満である場合
二 法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が三万
円以上である場合において、同条第七項に規定する請求書等の交付を受けなか
つたことにつきやむを得ない理由があるとき(同項に規定する帳簿に当該やむ
を得ない理由及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指
定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)。
消費税法基本通達11-6-2
令第49条第1項第1号《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等》
に規定する「課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合」
に該当するか否かは、一回の取引の課税仕入れに係る税込みの金額が3万円未満
かどうかで判定するのであるから、課税仕入れに係る一商品ごとの税込金額等に
よるものではないことに留意する。(平10課消2-9により追加)
以上より、領収書VSレシートの問題ではレシートに軍配が上がるのである。
まして、宛名が上様や但書がお品代などと記載され、あるいは、それらの記載のない白紙の領収書をもらうことに何の意味があるのだろうか。実質的に「ホ」どころか「ハ」の記載すらないのである。後から加筆修正することは、不正を疑われるのもやむを得ないし、犯罪にあたる場合もあるため、絶対に避けるべきである。仮に領収書をもらうのであれば、「イ」~「ホ」をしっかりと記載してもらうようにしましょう。逆に、レシートをもらう場合にも、「イ」~「ニ」が記載されているか確認する必要があります。
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七、クレジットカード決済の場合
クレジットカード決済の場合には、領収書やレシートが発行されないことが多いだろうと思います。それは、信用取引であり、その時点で対価の受領が無いからである。受領していない以上、受領を証明する文書の交付義務もないのです。もちろん、クレジットカード決済の時点で受領がほぼ確実であるといえるから、サービスとして領収書やレシートが交付されることもあるでしょう。
クレジットカード会社が交付する請求明細等では請求書等には該当しません。一般的にはご利用明細などが請求書等に該当することになります。ただ、少なくとも「イ」~「ニ」が記載されていることが前提になります。これらの記載がなければ、ご利用明細等であっても請求書等には該当しないことになります。請求明細等など「イ」~「ニ」が分かる書類とご利用明細とを合わせて保存し、税務調査があった場合に、やむを得ない理由を主張していくことになろうかと思います。
国税庁質疑応答事例
照会要旨
法人カードを利用している場合には、カード会社から一定期間ごとに請求明細
書が交付されますが、この請求明細書は消費税法第30条第9項《仕入税額控除に
係る請求書等の記載事項》に規定する請求書等に該当するのでしょうか。
回答要旨
クレジットカード会社がそのカードの利用者に交付する請求明細書等は、その
カード利用者である事業者に対して課税資産の譲渡等を行った他の事業者が作
成・交付した書類ではありませんから、消費税法第30条第9項に規定する請求書
等には該当しません。
しかし、クレジットカードサービスを利用した時には、利用者に対して課税資
産の譲渡等を行った他の事業者が、「ご利用明細」等を発行しているのが通常で
す。
この「ご利用明細」等には、①その書類の作成者の氏名又は名称、②課税資
産の譲渡等を行った年月日、③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
(当該課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資
産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)、④税率の異なるご
とに区分して合計した課税資産の譲渡等の対価の額、⑤その書類の交付を受け
る者の氏名又は名称が記載されていることが一般的であり、そのような書類であ
れば消費税法第30条第9項に規定する請求書等に該当することになります。
八、まとめ
経費の計上には領収書やレシートなど証拠は不要だが、何かしら証拠として保存することが望ましい。
証拠としてレシートがあれば十分。
消費税額の控除を受ける場合にレシートの保存が必要。
領収書やレシートの機能・意義を理解すれば領収書VSレシートの問題に悩まされることはなくなるでしょう。