確定申告が必要な人とは?不要な人とは?
令和2年(2020年)4月1日時点の施行法令に基づく
一、 はじめに
多くの学生やサラリーマンなど、いざ、仕事を始めたり、副業を始めたりしたときに、これって確定申告は必要なのかと疑問を持たれるかもしれません。そこで、これらの人に焦点をあて、確定申告が必要な人、しなくてもいい人を解説していきたいと思います。巷でささやかれている20万円や48万円、103万円などといった誤解や都市伝説についても説明していきます。なるべく根拠を明示していきますので、根拠のない噂に惑わされないようになりましょう。
二、 目次
収入と所得とは別の概念として用いられます。
収入から必要経費を差引いた残りが所得であり、給与所得の場合は給与収入から給与所得控除を差引いた残りが給与所得です(所得税法23条~35条)。103万円の誤解は収入と所得の概念の混乱から生じています。しっかりと区別して理解しましょう。課税される所得の有無がポイントとなります。
四、確定申告が必要な人(所得税法120条1項柱書)
原則は、(A)1年間の総所得金額(例えば、給与所得の場合は給与所得控除後の金額がここでいう所得に含まれる)の合計から、(B)各種所得控除(所得税法72条~86条)を差引いて得た(C)課税される所得金額に(D)所得税率を掛け求めた(E)所得税額から、(F)配当控除を差引いて残額があれば確定申告しなければなりません。
計算式にするとこんな感じです。
A(総所得金額)-B(各種所得控除)=C(課税される所得金額)
C×D(所得税率)=E(所得税額)
E-F(配当控除)>0
つまり、納税すべき税額があれば、確定申告しなさいというのが原則です。
ところが多くのサラリーマンなどは確定申告していませんよね。それは、多くの場合、年末調整によって所得税等が精算されるからです。これら例外的に確定申告が不要な場合がありますので、以下で述べます。
五、確定申告が不要な人(所得税法121条1項)
上記三に該当しない人は以下を検討するまでもなく確定申告は不要です。
つまり、納付すべき税額が無い人は確定申告が不要です。
特に上記Cが0円の場合には申告は不要です。扶養内で労働するなど収入の少ない学生・ダブルワーカーなどは、収入より所得控除が大きいため申告不要となるケースが多くあると思います。
例えば、
給与収入①が50万円、給与収入②が20万円、雑所得が30万円の場合
→70万円(合計給与収入)-55万円(給与所得控除)+30万円=(A)45万円
(A)45万円-(B)48万円(基礎控除)=(C)0円
上記Cが0円の場合は以下を検討するまでもなく確定申告が不要です。
次のいずれかにあたる人は確定申告が不要です。ただし、給与の収入金額2千万円を超える場合は確定申告が必要です。
1、1か所から給与の支払を受けている場合(源泉徴収対象であること)。
給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下である。
これがいわゆる20万円の申告不要制度です。
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2、2か所以上から給与の支払を受けている場合(源泉徴収対象であること)。
(1) 従たる給与の収入額(年末調整されなかった給与)とそれ以外の所得 額との合計が20万円以下である。
または
(2) 給与の収入金額の合計から、
「社会保険料控除の額、小規模企業共済等掛金控除の額、生命保険料
控除の額、地震保険料控除の額、障害者控除の額、寡婦控除の 額、
ひとり親控除の額、勤労学生控除の額、配偶者控除の額、配偶者特別
控除の額、扶養控除の額」
を差引いた額が150万円以下で、かつ、給与以外の所得の合計額が2
0万円以下である。
注意が必要なのは、所得と収入の使い分けです。ここでは、給与収入であり、給与所得控除は考えません。
また、(2)のパターンであれば、給与が20万円を超えていても確定申告が不要となる場合があるのです。ここは、20万円以下は申告が不要と考える人にとって誤解の多い点で、20万円の誤解です。
例えば、
(1)のパターン
・主たる給与180万円、従たる給与10万円、雑所得10万円
→確定申告は不要
・主たる給与180万円、従たる給与20万円、雑所得10万円
→確定申告が必要
(2)のパターン
・主たる給与180万円、従たる給与25万円、雑所得20万円、
社会保険料・生命保険料控除等合計55万円
→確定申告は不要
・主たる給与180万円、従たる給与30万円、雑所得20万円、
社会保険料・生命保険料控除合計50万円
→確定申告が必要
六、103万円の罠
1、103万円の仕組み
103万円以下なら所得税がかからない、確定申告は必要ないと聞いたことはないでしょうか?
完全に間違いではありませんが、全く正しいわけでもありません。
→では、なぜ103万円といわれるのか?
→給与所得者には給与所得控除があるからです(所得税法28条2項)。
103万円というのは、給与所得のみの場合の簡易な目安です。
給与所得者の場合は給与所得控除があるため、給与収入が103万円であれば、所得は48万円となり、基礎控除(48万円)によって課税所得が0円となるから、所得税がかからないという意味です。
→103万円(給与収入)-55万円(給与所得控除)=48万円(給与所得)
48万円(給与所得)-48万円(基礎控除)=0円(課税所得)
あくまでも、判断のポイントは所得48万円なのです。
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○給与所得以外の所得の場合
→103万円(雑所得)-48万円(基礎控除)=55万円(課税所得)
→納付すべき税額があり、例外にあたらないため、確定申告して納税する必要があります。
つまり、逆からいえば、給与所得控除と基礎控除の合計が103万円であるから、他に所得がなければ、所得税はかかりませんということです。あくまでも、所得金額が基礎控除以下であるという判断の基本構造は同じです。
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2、複数種類の所得がある場合
ここでは、103万円基準は無意味です。48万円の基準で判断していきましょう。
給与所得は、給与収入-給与所得控除でした。他の所得の場合は、収入-必要経費が所得です。
基礎控除48万円は所得の種類を問わずすべての人に適用されますので、収入基準ではなく所得基準で考え、合計所得が基礎控除の48万円以下であれば、税金がかからない、確定申告が不要だと判断しましょう。
例えば、
給与収入70万円、雑収入60万円、必要経費10万円の場合
→70万円-55万円=15万円(給与所得)
40万円-10万円=30万円(雑所得)
15万円+30万円=45万円(合計所得)≦48万円(基礎控除)
→ 合計所得が基礎控除の48万円以下ですので、
課税所得は0円となり、確定申告は不要であり所得税はかかりません。
七、確定申告した方がいい人
1、 源泉徴収税額の還付を受けたい場合
給与所得者は、給与から所得税が天引き(源泉徴収)されています。年末調整を経れば精算されますが、ダブルワークの場合などは、全ての給与で年末調整を受けることはできないため、還付を受けるためには、確定申告が必要となります(所得税法122条1項)。
2、 その他
八、まとめ
収入と所得は別の概念である。
103万円というのは、給与所得控除の影響による簡易な目安に過ぎません。基準としては基礎控除の48万円の方が有益です。
確定申告が必要か否かは、原則として、収入で判断せず、合計所得で判断しましょう。基本構造さえ、おさえておけば迷いません。